コーチの役割

コーチは「きっかけ」にすぎない

なぜ、世界的な経営者やトップアスリートは、プロのコーチを雇うのでしょうか？
彼らに能力や意志力が足りないからでしょうか？

いいえ、違います。

彼らは知っているのです。

人間の脳には、自分一人では決して突破できない構造的な限界が存在することを。

コーチとは、悩み相談でも、アドバイスをする人でもありません。

コーチは、あなたの人生の内容（コンテンツ）には一切口を出しません。

そして、脳の使い方（プロセス）を書き換えるのも、コーチではありません。
マインドを書き換える権限と能力を持っているのは、世界で唯一、
「演算主体」であるあなた自身だけです。

「何を建てるか」・「どう建てるか」を決めるのは、あなたの権限だからです。

では、コーチは何をするのか。

それは、あなたの脳が「書き換わらざるを得ない」状況を作り出す、
「きっかけ」としての役割です。

コーチは「きっかけ」すぎません。しかし、強烈です。

「強烈なきっかけ」が存在することで、
化学反応のように、あなたの脳内で眠っていたアルゴリズムが目を覚ますのです。

人間の脳には、「心理的盲点（スコトマ）」という機能が備わっています。
これは単に「見えない死角がある」ということではありません。
脳は、重要ではないと判断した情報を認識から隠すだけでなく、「隠したしたこと自体」を隠します。

これは、窓のない部屋に閉じ込められた状態に似ています。
部屋の中にいる人間にとって、その部屋は「狭い空間」ではなく、「世界のすべて」として認識されます。壁の外側に広大な世界があるとしても、その「外側」という概念自体が、部屋の中には存在しないのです。

存在しないものを、認識することも、目指すこともできません。
自分が囚われている思考の枠組みを、自分ひとりで抜け出すことが不可能なのは、能力の問題ではなく、「外側などない」と脳が誤って認識しているからです。

だからこそ、あなたの論理の外に立つ「他者」が不可欠になります。

コーチの第一の役割は、あなたの認識空間に「外側」を持ち込むことです。

脳によって隠されている「外側」にコーチは存在し、問いを投げかける。
そのとき初めて、脳は「自分の世界は不完全かもしれない」という疑いを持ち、脳の機能によって隠されていた「認識の壁」の存在に気づくことができるのです。

人間の脳には、生命維持のための強力な保守機能、「恒常性維持機能（ホメオスタシス）」という力が働いています。これは、今の自分が「安全だ」「通常だ」と認識している範囲へ、常に自分を引き戻そうとする強烈な引力です。

多くの人はこれを「変化を阻む壁」と捉えますが、実は違います。

この引力の中心が「今の自分」に固定されていることこそが、変われない原因なのです。

コーチが、未来のゴールの世界こそが世界の基準であるかのように対峙することで、
あなたの脳内に「現状に対する強烈な違和感」を発生させるのです。

その違和感が臨界点を超えたとき、あなたの脳は矛盾を解消しようと働きます。
あなたの脳は「ゴール側の自分こそ、安全だ、通常だ」と認識システムを書き換えます。

この時、ホメオスタシスは、あなたをゴール側に引き戻す引力として働き始めます。

コーチがいることで、努力や意志力で坂を登るのではなく、
リンゴが地球に引っ張られるように、勝手に未来へと加速してしまうのです。